歯科医師コラム

歯科医師 開業する理由・しない理由

歯科医院 開業する理由・しない理由

歯科医師にとって開業するか、しないかは、悩むところでしょう。開業を念頭に最初から計画的に進めておられる方もいらっしゃいますが、歯科医院が飽和状態である昨今、資金などを考えると足踏みしてしまう方も多いはず。開業したら成功の道をまっしぐらというわけではなく、やむなく閉院される方もたくさんおられます。税理士的観点から見た「開業のメリット・デメリット」といった記事はたくさんありますが、今回は「開業」について実際に歯科医師の方に伺ったお話をもとにご紹介してみたいと思います。

なぜ「開業」するのですか?

将来的に開業を希望している先生によくこの質問をするのですが、ほとんどの先生は

「歳をとった時に働くところが無いから」

と答えられます。たしかに、歯科医師の仕事はハードワークで、お口の中をのぞく態勢などから腰を悪くされる方もおられますし、細かい作業だけに視力が落ちてくると治療が困難になってくるという問題もあるでしょう。

医師の場合は「転科」という方法があり、オペに携わる外科の先生などは、一定の年齢になられたら内科などに転科されます。しかし、歯科医師はそれができないだけに将来の自分の居場所を確保するという意味で「開業」という道を選ばれる方が多いようです。

開業費用

開業のためには、最低でも5,000万円程度は必要だといわれます。開業しようとする地域や坪数などにもよりますが、7000万円~7500万円前後の資金が必要になってきます。つい最近私がお話をさせて頂いた先生は今夏に開業予定ですが資金6000万円、来春開業予定の先生は何と約9000万円と言われていました。

チェアー数は、ほとんどの方が3台からスタートされているようで、そこから1~2台は増設できるように配管工事をしておかれるようで、9000万円と言われた先生は7台まで増設できるようにしているとの事でした。

開業医の頃はそこにあって当たり前だったチェアーやCTが恐ろしい金額なのだと実感されることでしょう。今やCTは当たり前で、マイクロを完備されている医院も増えて来ているようです。

開業前は、多額のお金が動くために金銭感覚が鈍って、わからなくなってしまうと言われる先生も多くおられます。業者もそこが狙い目なのでしょうね。

「開業する」メリット・デメリット   

 ・ 高齢になった時の自分の居場所が確保される。

 ・ 自分自身の方針ややり方で働くことが出来る。

 ・ 経営やスタッフ管理に時間を割かれて、治療に専念できない。

 ・ 休みが取りにくくなる。

 ・ 場合によっては自分自身の給与が勤務医時代よりも下がる可能性もある。

 ・ すべてが自分の責任になる。

「開業しない」メリット・デメリットト

 ・ 有給休暇など比較的取りやすい。

 ・ セミナーなどに参加しやすい。

 ・ 治療に専念できる。

 ・ 場合によっては開業するよりも高給が望める。

 ・ 院長ほどの責任を負う必要はない。

 ・ 転職することもできる。

 ・ 高齢になった時に勤務医を続けられるか不安

 ・ 院長の方針に従う必要があり、自分の思うようにできない場合もある。

経営方針や治療方針が勤務医だと思うようにできないというのは大きなポイントでしょう。開業せずに分院長というのは嫌ですかと質問した際に、分院長はあくまでも理事長の経営方針に従う必要があるので、やはり開業したいとはっきり言われた先生もおられました。

しかしそれに付随してくるのは「責任の所在」かもしれません。開業して院長という立場になれば、すべての責任の所在は院長という事になります。自分自身の治療はもちろんですが、勤務医やスタッフのミスもすべて院長の責任になります。その点が勤務医との大きな違いでしょう。勤務医であれば最終的に退職・転職という道もありますが、院長は最後まですべて自分で責任を取る必要が出てきます。

開業しない理由として「休み」について触れた先生もおられました。

開業準備に取られる時間や労力はもちろんですが、開業してからも休診日には色々な雑用が入ることも多く、もちろん有給休暇などはありません。そういう事を考えると、勤務医の方が有給休暇なども取りやすく、子供も小さいので、遊びに連れて行ったりもしやすいし、好きな勉強会に参加することも出来ると言われていました。

最近では「働く側」が大変有利な状況になってきていますので、雇用される立場の方が自由であることは確かかもしれません。

「経営」と「スタッフ管理」

「勤務医の方が治療に専念できる」これは開業してみて初めて分かることかもしれません。すでに開業して院長になっておられる方はたいてい、勤務医の頃の方が治療に専念出来て良かったと言われます。

院長になると雑務はもちろんですが、大きくのしかかってくるのは「経営」と「スタッフ管理」です。先日あるクリニックの院長が「患者さんが少なく暇だと精神的につらいし、患者さんが多く忙しいと体力的につらい」と言われていました。勤務医だったころ院長に数字の事ばかり言われたことが、開業して初めて理解できるようになるかもしれません。歯科医師としての経験を積んだから開業しましょうと考えられている方が多いようですが、開業するという事は「経営者」になるということです。その自覚がないとかなり難しいかもしれません。最近では、若い歯科医師の方も「経営セミナー」に参加されている方が多いようです。

経営と同じくらい厄介なものが、「スタッフ管理」です。歯科医院というのは院長以外すべてスタッフは女性というところも少なくありませんので、女性の対応が苦手な方にとっては一番のネックかもしれません。

今では大きな医療法人の理事長も開業当初はスタッフ全員が申し合わせたように同じ日に一気に辞めるという苦い経験をされた方もおられます。またスタッフに「院長、お話があります」と声かけをされたら一気に昼食がまずくなってしまうと言われた院長もおられました。スタッフが院長に話があるというときは、決まって退職の話だと何度も経験されているからでしょう。またスタッフの募集をしなくてはいけないという一連の問題が発生することを考えた瞬間に食事もおいしくなくなるということです。

以前、ある院長から自身の医院を売却するか、誰かに任せたいと相談を受けたことがありました。自身は海外で専門医を取得するために勉強をしたいと。「経営」や「スタッフ管理」に明け暮れるよりも、高度な技術を学ぶ方が自分には楽しく、やりがいを感じると思われたようです。

「閉院」の実態

2019年1月の段階で歯科医院数は、68791件。そのうち1年内に新しく開院した数は、2624件。閉院した数は 2411件というデータが出ています。頻繁にあちこちで歯科医院が開業しているイメージがあるのですが、その裏でほぼ同じ件数の歯科医院が閉院しているということがわかると思います。

閉院の理由はどのようなものがあるのでしょうか?

・ 経営面の問題

・ 悪い噂が立ってしまった

・ スタッフが採用できない

・ 院長自身の体調問題

・ 院長が高齢により、継承する人がいない

これだけ歯科医院が乱立している昨今、良い治療を提供していれば患者さんはついてくるという時代ではありません。接客業ではなく、医療なのだからサービスやおもてなしは必要ないと頑なに言い張っている院長も最終的には閉院に追い込まれるでしょう。また、「院長は俺だ!」とふんぞり返っていてはスタッフがどんどん辞めていくでしょうし、治療をするのは院長である自分だと言ってもスタッフが一人もいない状態で医院を維持することは出来ません。結局、こういう考え方だと失敗という形で医院を閉めることになってしまいます。

「開業するか、しないか」は、自分が開業したいかしたくないかという事も大切ですが、向き不向きがあることも考えられた方が良いかもしれません。「治療や研究が大好きで技術の向上を一番に考えたいという方」「スタッフ(女性)の対応が苦手な方」は、果たして開業することが自分にとって良いことなのかを今一度考えられた方が良いかもしれません。

勤務医であれば自分に合っていなければ転職することもできますが、開業はそういうわけにはいきません。

「開業」前のお試し期間

果たして、自分は「開業」が向いているのだろうか? と本当は悩んでほしいところなのですが、ほとんどの人が悩むよりも「開業する」と先に決めておられることが多いようです。 私は「開業」が自分に向いているかを考える期間として「雇われ院長」「分院長」を経験されることをお勧めします。数年、経験して大丈夫と思われた方は「開業」されてもいいでしょうし、無理に「開業」しなくても「雇われ院長」「分院長」で一生勤務されることも決して間違いではないと思います。

「開業」がすべてではありません。60歳が定年でそれ以降は勤務医として働けないわけではありません。それ以降は一年一年の更新という形になるところもありますが、現に70歳まで勤務されている方もたくさんおられます。もちろん60歳で転職するというのはかなりハードルが高くなりますが、ずっと継続して勤務している医院であれば60歳だから辞めて下さいとは言われません。

開業には大きなリスクを伴います。歯科医師は開業しなくてはという考えではなく、プラス面、マイナス面をしっかり見極めた上でご自身に合った方向性を考えられることが重要だと思います。

開業リスクが軽減する「居抜き物件」

これまでは、内面的な部分での開業リスクについてお話をしてきましたが、開業リスクには「お金」という大きなリスクもあります。借入などのリスクを考えておられる方は「居抜き物件」という方法で費用を軽減するというのは如何でしょうか?

「居抜き物件」というのはこれまで歯科医院を経営されていた方が何らかの理由で売却を希望され、その歯科医院を買い取るというスタイルです。チェアーや機材、材料、スタッフなど、とりあえず明日からでも診療が出来る状態です。(もちろん届出等の問題から明日というのは無理ですが)

でも、ちょっと待って下さい!

なぜ売却しようとされているのでしょうか・・・そこが問題です。

「売却」を希望される医院は大きく分けて3パターンあると思われます。

1. 院長の早期引退・高齢による引退・子供が継承しないため

2. 院長の体調不良などによる引退。

3. 医療法人が医院整理をするため、もしくは場所などを変えて別の医院を開業   

  するため。

1番の継承パターンは、比較的、医院が古くなってしまっている場合が多いです。機材はもちろんですが、医院自体も古びており、近くに新しい医院がたくさん出来ている中ではかなり厳しい状態に陥っている場合もあります。

2番のパターンは、院長の体調不良という理由を前面に出されますが、裏では、経営不振やスタッフとの問題がある場合もあります。また悪い噂が流れている場合もあります。

3番のパターンは、単に分院整理や、別の場所での開院を考えられてという場合ですが、純粋に良い医院だけど売却希望される場合もありますし、採算が取れない医院だから売却するという場合もあります。

特例ですが、院長が若くして亡くなられ、子供もまだ継承できない場合の「売却」という場合もあります。

「居抜き物件」のメリット・デメリット

・ これまで診療されていたので、機材などがそのまま使用できるうえにすべて

  揃っている。

・ 認知度があり、既存の患者さんがついている。

・ 既存スタッフを引き継げる場合が多い。

・ すぐに診療を開始することが出来る。

 ・ これまで診療していたとはいえ、建物・設備の修繕や買換えが必要な場合

   もある。廃棄などに費用がかかる場合もある。

 ・ 認知度の高さゆえに元のイメージが強く、悪い場合は、新規の患者さんを  

   確保しづらい場合もある。

 ・ 以前の患者さんからクレームなどを言われる場合もある。

 ・ スタッフ確保が困難な場合もある。

以上のようなメリット・デメリットが考えられます。一から新しい医院で機材を揃えることが当然ベストではありますが、大きなリスクが伴いますので、そういう意味では「居抜き物件」を検討するのも一つの手だと言えるでしょう。

まとめ

以前のように「歯科医師=開業」という道しかないわけではありません。それぞれにメリット・デメリットがありますが、自分が一番重視することは何かという事を考えてそれを実現するための道を選ばれることをお勧め致します。

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